少量吐出の精度、カタログ値と現場実測がずれる理由

生産技術の藤井です。
電子部品メーカーで18年、接着剤やグリスの塗布工程を担当していました。

いまも現場から相談を受けるのですが、多いのが「カタログ通りの精度が出ない」という話です。
装置が壊れているケースはほとんどありません。
ずれる理由のほとんどは、材料側と条件側にあります。

カタログの数値は理論値である

意外と知られていませんが、ディスペンサメーカーの仕様表には「数値は理論値です。使用樹脂や作業環境などにより変動することがあります」といった脚注が付いていることが多いです。
つまりメーカー自身が、実測とは差が出ると先に断っているわけです。

ここを見落としたまま「±◯%と書いてあったのに」と装置を疑うと、原因追及が丸ごと遠回りになります。

ずれを生む要因は大きく3つ

材料の温度

粘度は温度で動きます。
一般的な液体では、温度が1度上がると粘度が数〜10%程度下がるといわれています(兵神装備株式会社の技術コラムより)。

やっかいなのは、材料の温度が流路の中で一定ではないことです。
タンクでは25℃でも、ホースを通ってノズルに届く頃には下がっている。
材料メーカーが提示する粘度も「mPa・s/25℃」のように温度とセットで書かれているはずで、温度を抜きにした粘度の話にはあまり意味がありません。

朝一と昼過ぎで塗布量が違う、季節が変わると条件を取り直している。
そういう現場は、まずここを疑ってください。
タンクやホース、バルブにヒータを巻いて温度を揃えるだけで落ち着くこともあります。

せん断による粘度変化

工業用の材料の多くは非ニュートン流体で、かき混ぜたり細い管を通したりすると粘度が変わります。
一定の粘度値を持たない、というのが正確な言い方です。

流速が速い、ノズルが細いといった条件では材料の内部構造が壊れ、吐出の前後で性質が変わることもあります。
少量吐出ほど細いノズルを使うので、この影響は無視できません。
このあたりの現象は日本レオロジー学会が扱っている領域で、学会の講座なども公開されています。

吐出量の決め方

方式によって、粘度変化の受け方が違います。

分類量の決め方粘度変化の影響
エア式・バルブ式圧力と時間受けやすい
容積式(プランジャ式など)押しのけた体積受けにくい

エア式は「この圧力でこの秒数なら、これくらい出るはず」という間接的な決め方です。
材料が硬くなれば出る量は減りますし、シリンジの残量が減ると空気の容積が増えて加圧が遅れ、吐出量が落ちることも知られています。
これは微量吐出ほど顕著に出ます。

一方、容積式は押しのけた体積で量が決まるので、原理的に粘度の影響を受けにくい。
実際、高粘度材料の塗布に対応したプランジャポンプ式ディスペンサでは、計量方式として「容積計量(プランジャ式)」と明記されています。

見落とされやすいのが気泡

もうひとつ、現場で見つけにくいのが材料に混ざった気泡です。

原材料の段階ですでに含まれている場合もありますし、溶存していたガスが圧力や温度の変化で析出することもあります。
シリンジやタンクへの詰め替え、吐出スピードが速すぎるときも混入します。

気泡が計量室に入ると、その分だけ液が出ません。
やっかいなのは、マイクロバブルやナノバブルは目で見えないことです。
「見た目は問題ないのに数値だけ合わない」というときは、脱泡の工程を疑ってみてください。

実測するなら条件を先に固定する

比較できるデータを取るために、最低限そろえておきたい項目です。

  • 材料温度(何℃で測ったかを必ず記録する)
  • ノズルの番手と長さ、配管長
  • 連続打ちか単発かの区別
  • カートリッジの残量
  • 重量で測るか体積で測るか(換算には比重が必要)

粘度そのものも、測り方で値が変わります。
測定方法はJIS Z 8803として規格化されているので、材料メーカーの提示値を読むときは日本規格協会の規格情報もあわせて確認しておくと安全です。

粘度計には毛細管式、回転式、振動式などいくつもの方式があり、同じ材料でも測り方が違えば出てくる数字は変わります。
非ニュートン流体の場合は、せん断速度がそろう円錐平板型のような方式でないと比較に使える値になりません。
自社の測定値と材料メーカーの提示値が食い違うとき、そもそも土俵が違っていたというのはよくある話です。

まとめ

カタログ値と実測がずれるのは、装置の不良ではなく前提条件の違いです。
温度、せん断、方式の3点を押さえるだけで、原因の切り分けはかなり早くなります。

数値を疑う前に、条件を揃える。
遠回りに見えて、これが一番早い道です。

最終更新日 2026年8月4日 by ksig2019